東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1751号 判決 1975年3月27日
控訴人(第一審原告)
須藤基志
右訴訟代理人
宇津泰親
被控訴人(第一審被告)
久保田ミネ
右訴訟代理人
石川功
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一須藤梅吉がその遺産の二分の一を被控訴人に遺贈すること及び遺言執行者に弁護士石川功を指定することを内容とする昭和三六年五月二七日付横浜法務局所属公証人仁井田秀穂作成第四七四二号遺言公正証書(以下、本件遺言書という。)が存在すること及び右梅吉が同四三年七月二四日死亡したことは当事者間に争いがなく、また、<証拠>を総合すると、右梅吉は同三六年五月二七日訴外風間ハツ子、同益田久子を帯同して前記公証人役場に赴き、同人らを立会証人として同公証人に対し遺言公正証書の作成を嘱託し、右同内容の遺言を口授したので同公証人はその趣旨に従つて本件遺言書を作成した(甲第一号証はその正本)ことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
そして、右梅吉がその死亡当時において原判決添付別紙物件目録(以下別紙目録という。)記載の各不動産を所有していた(共有持分三分の一)ことについては控訴人の明らかに争わないところであるから右事実を自白したものとみなされる。
二右遺言が無効であるとの控訴人の各主張については当裁判所はいずれもその理由がないものと判断する。その理由はこの点に関する原判決の理由二の判示(但し原判決一六枚目裏九行目「右認定の事実によると、」を「右認定の事実及び前記一の事実によると」と改める。)と同一であるからこれをこゝに引用する。
三そうすると、本件遺言書による梅吉の遺言は同人の前示死亡によつてその効力を生じ、被控訴人は梅吉の遺産の二分の一の遺贈を受けたものというべきであるから梅吉がその三分の一の共有持分を有する本件不動産のうち建物及び非農地については受遺者たる被控訴人が梅吉の右死亡時に同人の共有持分の二分の一を取得したものである。しかしながら右遺産中農地については農地法の定に従い県知事の許可を受けることによりはじめて所有権移転の効果を生ずるものと解すべきである。農地法第三条が農地の所有権移転についての制限を加えたのは農地に関する当事者の処分行為を同法第一条に定める同法制定の目的に適合させようとする必要に出たものであり、その趣意は当事者のなす処分行為が契約であると単独行為であるとによつて異るところはないのであつて遺贈が単独行為であり包括受遺者は相続人と同一の地位を有する(民法第九九〇条)ものであるにしても相続の場合と異り遺産についての所有権移転は遺言者の処分行為に基づくものであるから農地法の関係においては一般の贈与の場合と全くその取扱いを同じくし、同法所定の規制を受けるものと解するを相当とする。
そうすると、被控訴人は、梅吉の相続人に対し本件物件中農地については農地法所定の知事に対する所有権移転の許可申請手続に協力することを求めることができ、当該許可を受けたときにその所有権を取得するに至るものであつて、一方梅吉の相続人は右申請手続に協力すべき義務を負うものである。《以下、省略》
(杉山孝 古川純一 岩佐善己)